「シンは、その、嫉妬されるのは嫌ですか?」
昼食後からなぜか期限が悪くなり、二人きりになった途端、頭をぐりぐりと腕に擦り付けてきた――それ自体は決して嫌ではないのだが――レーナを問い詰めると、そんな質問をされた。
嫉妬とは、文字通りの意味なのだろう。彼女にされるものであれば嫌ではない……むしろ嬉しいとすら思っているシンは、いいやと首を振る。
「……食堂でたまたま、他の部隊から会議のために来ていた連邦軍の女性がいて。シンを見て、一目惚れした、と言っているのが聞こえてしまったので……それで……」
それで、シンは自分のものなのに、なんて思ってしまって。すでに恋人同士の関係であるのにどうすればいいのか分からず、一人で勝手に不安になり、一人で勝手に悶々と考えてしまった。
こんな黒い感情を知ってシンに嫌われないだろうかとも思って、なかなか言い出せずにいた。言わなければ、言葉にしなければ伝わらないことだってあるのだと、今までに散々経験して分かっていたはずなのに。
愁眉を下げるレーナに、シンはふ、と吐息だけで笑う。自分と同じ気持ちを彼女が抱いてくれたことが、単純に嬉しい、と思った。
レーナ自身は共和国人だから、白系種だから、と言って気付いていないようだが、基地にいる機動打撃群以外の軍人が時折彼女に向ける視線。聞こえてくる会話。それが衆望のそれではなく、もっと熱の籠もったもののことがある。褒められているのを耳にするのはシンとて嬉しいが、そうでないものについては正直面白くない。自分のものだと主張したくなる。
「嫉妬なんて、おれだってしてる。それに、――レーナに言ったら、きっと嫌がれれるようなことだって考えることがある」
「えっ……」
いったいどんなことを? と言外に訊ねてくる白銀の瞳。じっと見つめて、そこに映るのが自分の血赤色だけなのを認めてから、シンは口を開いた。
「レーナの笑った顔を誰にも見せたくない、と思うし、できるならおれしか知らない場所に閉じ込めておきたい、と思う。――誰にも奪わせたくない。奪わせない。おれだけのものにしたい」
大切に大切にどこかへ隠して、自分だけのものだと確かめたくなる。どこにも行かせずに、誰も知らない場所に、二人きりで。
もちろんそんなことはできないと理解しているが、自分でも驚くくらいのそんな独占欲を抱くことがある。削がれて何もかもを諦めていたのに、一度手を伸ばして望んでからは強欲になっているらしい。
けれどレーナはそれを聞いて引く様子はなく。
むしろじっと目を合わせて。
何度か瞬きしてから、二人同時にぷっ、と吹き出した。
「……わたしたち、同じようなことを考えていたんですね」
「……そうだな」
どちらからともなく額をこつんと合わせて、再び視線を絡める。
それだけで、この後にしたいことも同じだと自然と理解できて。
ゆっくりと瞼を閉じて、唇同士をそっと触れ合わせた。
end
2022.06.01 初出