レーナが会議を終え隊舎を歩いていると、反対側から機甲搭乗服姿のシンが音もなく歩いて来た。たしかプロセッサーたちは午前中は多脚機甲兵器――〈レギンレイヴ〉の砲撃訓練があったと記憶している。どうやらそちらも無事終わったらしい。
シンもこちらに気付いて、血赤の双眸と視線が絡む。ふわりと、レーナの面に微笑が浮かんだ。
「シン、お疲れ様です」
「レーナもお疲れ。これから戻るのか?」
「ええ。先ほど会議が終わったところなので、一度執務室に戻ろうかと」
「送ろうか?」
まだこれから仕事もある中嬉しいお誘いだったが、さすがに訓練終わりの彼にお願いするのは申し訳ない。
それに、白皙の容貌はいつもより疲労の色が濃いようにも見える。昨晩はあまり寝付けなかったと今朝の食堂で聞いてはいたが、更に訓練もあって一気に疲れが出たのだろうか。この後はシンも事務作業だったはずだから、少しはゆっくりできるといいのだが。
「いえ。……それよりシン、顔色があまり良くないですよ。早く部屋で着替えて休んだ方がいいのではないですか?」
「……そう、だな。少し疲れた気はする」
微苦笑して肩を竦めるシン。どうやら自覚はあるらしいのでやや安心した。放っておくとすぐ無理をしかねないから。
彼に何かできればいいけれど、疲労では第三者ができることなど休めと言うことくらいだ。それは先ほど言ったし、あと、自分ができそうなことといえば――――。
思って、気付いたら目の前の肩へ手を伸ばし伸び上がっていた。
「え……」
一瞬だけ触れた唇。
紅い瞳を僅かに見開き固まるシンの姿。
普段は見せない年相応な表情に頬を緩ませながら、ついしてしまった自らの行動に今更恥ずかしさが込み上げる。
「す、少しは元気になりましたか? なんて…………」
はにかみながら言えば、シンは何度か瞬いた後にすっと目を細めた。ついで、腰と肩に腕が伸びて抱き寄せられる。
一瞬の出来事に驚く間もなく、レーナの耳に、頬に、――最後に口に。少しかさついた感触と共にキスの雨が降る。
一気に頬が熱を持つ。声も上げられないまま端正な顔を見上げると、意地悪げに笑う柘榴石の瞳。
「ん、元気になった。もう少し頑張れそう」
「だ、誰かに見られたら……!」
「先に仕掛けたのはレーナの方だろ?」
「仕掛けたつもりは、ないのですが……」
けれどそう言われてしまえば何も言い訳できない。実際、先にキスをしたのはレーナだ。
「……シンのばか」
「ばかでいいから、もう少し充電させて」
言いながら、体に回された腕に力が込められ二人の間に隙間がなくなる。分厚い機甲搭乗服の上からでも分かる精悍な体躯と、僅かな温もり、しんと冷えた針葉樹の香りに、レーナは頭がくらくらしそうになった。
「…………シンのばか」
せめてもの抗議を再び口にして、目の前の肩口へ額をぐりぐりと押しつけた。
これでは自分も充電させてもらっているな、と思いながら。
end
2022.07.31 初出
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貴方は萌えが足りないと感じたら『突然キスをされてポカンとしているしじまのシンレナ』をかいてみましょう。幸せにしてあげてください。