聖教国での作戦を終了し、連邦へ帰る列車の中。向かいに座るシンがふと目を覚ました。クレナが来て少し話した後しばらくは起きていたが、やはり疲労と眠気には抗えなかったようだ。
「まだ寝てなくていいのか?」
「ああ。少しスッキリしたし、もうすぐ着くだろうから」
軽く頭を振るシン。まだぼんやりしているのか何度か瞬く血赤に、ライデンはニヤリと口角を上げる。
「良かったな。返事、貰えたんだろ」
ピクリと反応したシンが、一瞬で不機嫌そうな気配を纏ってライデンを睨んだ。
「……なんで知ってるんだ」
「そりゃ、お前らの様子見てたら一発だろ」
「……」
だからクレナが来て何となく察して、ライデンたちは席を立っていたのだが。
誰かに恋をするという感情を覚えたところで、シンとレーナが二人でいるときの雰囲気だとか、微妙な声色の違いだとか、そういったものを察するまでには至らなかったらしい。シンらしいと言えばそうなのかもしれないが、少しは察せるようになっていて欲しかった。主に周囲の人間のために。
そういえば、と、ライデンはここ数ヶ月気になっていたことを訊ねることにした。さすがにくっつく前にこんなことを訊いて、また変に迷走しても困るからと一度も訊いたことがなかったこと。
「お前、レーナが誰かに取られる可能性って考えたことなかったのか?」
「…………」
硬直。次いで僅かに真紅の双眸が見開かれるのを見て、ライデンはやっぱりそうかと頭を抱えそうになった。
あまり人の容姿を気にしないライデンから見ても、レーナは美人の部類に入る。いくら共和国からの客員士官とはいえ、シンの知らないところで彼女に興味を持つ人間がいたっておかしくないくらいに。機動打撃群内――というよりリュストカマー基地内、あるいは軍上層部ではシンの
しばらく沈黙を貫いていたシンだったが、どこか拗ねたような、気恥ずかしさを押し隠すような顔で窓の方を向いて、ぽつりぽつりと口を開いた。
「……自分の気持ちに整理をつけるのに必死だったし、そこまで考えてなかった。レーナにおれは必要ないとか、おれが傍にいていい人じゃないとかは、考えたこともあったけど」
おおよそライデンの予想通りのことを考えていたらしいが、本人の口から直接聞くのは初めてだ。
もしも誰かに先を越されることや、万が一シンがレーナに拒絶されるようなことがあったなら、それこそ彼の兄を討った後よりも酷い有り様になっていただろう。想像もしたくないが。
しかし、こうして生きている誰かに想いを寄せて、懊悩する死神の姿が見られるようになるとは……。
本当に変わったのだなと、改めて思う。
それこそ、〝死神〟とはもう呼べないくらいに。ここにいるのはただの十八歳の少年だった。
「ま。けど、良かったな」
それだけ口にする。
長い付き合いだ。全て言わずともシンには伝わったのだろう。ちらりと血赤の瞳がこちらを向いて、ほんの僅かに緩んだ。
それこそ、付き合いの長い仲だからこそ分かるくらい、ほんの僅かに。
「――ああ」
end
2023.08.08 初出