ぼんやりと目を開けると、カーテンの向こう側が僅かに白んでいた。もうじき陽が見えてくる頃らしい。
知らない間に自分が意識を落としていたことにアーチャーは驚いたが、腕の中で身じろぐ温かな体に気付いて、納得。桃色の唇は小さく開き、ゆったりと呼吸を繰り返す。宝石のような瞳も今は隠されている。
昨夜は少々無理をさせてしまったから、あと三時間は少なくとも目を覚さないかもしれない。そう算段をつけたアーチャーは、風邪を引かないようにと白い肩に布団を掛け直した。良い夢でも見ているのか、凛の表情が綻ぶ。
「……サーヴァントは夢を見ない。私もその方が都合がいいと思っていた。だが――君の見る夢ならば、私も共に見てみたかったな」
ぽつりと、思わず言葉を漏らした。紛れもなく男の本心。
生前、夢を見る回数は多くなかったが、見ると決まって良くないものばかりだった。良くないもの、というのが具体的に何だったのかはもう思い出せない。ただ、冷や汗をかきながら飛び起きていたのだから、悪い夢のだろうと思っている。だからサーヴァントとなり、そういったモノを見なくなったのは都合が良かった。――もっとも、守護者としての現実の方がこの上なく残酷だったのだが。
「…………ん」
小さな声が聞こえ、起こしてしまっただろうかとアーチャーは凛のかんばせをそっと覗き込んだ。けれどその瞼はしっかり閉じたままで、すぐに寝息が聞こえてくる。それにひっそり胸を撫で下ろしたアーチャーは、再びその美貌を見つめた。
――色白の頬と、そこに掛かる黒髪のコントラストが美しい。それをそっと指先で払うと、くすぐったそうに凛は小さく肩を揺らす。
その愛らしい姿にアーチャーは頬を緩めると、さらさらと流れる黒髪に顔を埋め目を閉じた。
彼女の夢を、少しでも垣間見ることができれば――と叶わぬ願いを抱きながら。
end
2020.12.06 初出